映画『ブリング・ハー・バック』レビュー|怖いのは幽霊ではなく、儀式を盲信する人間の■■

7月10日(金)公開の映画『ブリング・ハー・バック』は、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』で注目を集めたダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟が手がけるホラー映画作品。本作の公式サイトではキャッチコピー「一線を越えた禁断の“儀式体験”ホラー」という不穏な言葉が掲げられています。

物語の主人公は、父を亡くしたばかりで身寄りのない兄妹アンディ(ビリー・バラット)とパイパー(ソラ・ウォン)。目の不自由な妹パイパーを守りたい兄アンディは、離れ離れになることを避けるため、里親ローラ(サリー・ホーキンス)の家で暮らすことになります。
ローラは一見、とても親切な女性なんですが、その親切さにはどこか違和感が漂います。さらに、ローラの家には言葉を話さない少年オリバー(ジョナ・レン・フィリップス)も暮らしているんですが、彼とローラの関係もどこか家族らしくない……物語序盤から違和感ばかりです。さらに、家の周囲に点在する円のモチーフ、古いVHSテープの粗い映像、などなど、不穏な儀式の気配が少しずつ兄妹を追い詰めていきます。
“親切な里親”ローラの笑顔が、怖い
本作で最も印象に残るのは、サリー・ホーキンスが演じる里親ローラです。サリー・ホーキンスといえば、『パディントン』シリーズの優しい母親役や、『シェイプ・オブ・ウォーター』での繊細な演技を思い浮かべる人も多いはずです。その彼女が、本作では怖い。本当に怖い。


ローラは大声で脅すわけでも、露骨に狂気を見せるわけでもありません。むしろ笑っています。穏やかに接し、兄妹を受け入れ、家庭らしい空気を作ろうとします。しかし、逆にその笑顔が怖いのです。親切に見える言葉の奥に、おそらく別の目的がある。優しさに見える行為が、実は相手を逃がさないためのものなのではないか。私たち観客は、アンディと同じように違和感を抱きながら、ローラの家を見つめることになります。
儀式のルールを探る“謎解き”としての面白さ
『ブリング・ハー・バック』は、ただ怖いだけのホラーではありません。序盤から提示されるのは、儀式の断片です。家の周りにある円のモチーフ、どこか異様な行動を取るローラ、正体のつかめない少年オリバー。そして、粗い画質で映し出されるVHSの映像。それらは当初、バラバラに提示されるだけの不気味な要素に見えます。しかし、物語が進むにつれ、この不気味さが近づき、線で結ばれていきます。


「この家で何が行われようとしているのか」
「ローラの目的は何なのか」
「オリバーは何者なのか」
観客は、恐怖を感じながらも、謎を解くように物語を追っていくことになります。この感覚は、前作『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』にも通じます。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』では、あるルールに従って降霊が行われました。本作でも、儀式には厳然としたルールがありそうです。


ただし、本作は『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』ほど設定の斬新さで一気に引っ張るタイプではありません。代わりに、家族、喪失、執着、願いといった感情をじわじわと絡めながら、私たち観客を儀式の中心へ引き込んでいきます。
後半に待つ、かなり強めの……生々しい描写
注意しておきたいのは、本作にはかなり生々しい描写があることです。特に後半には、怖いというより、思わず目を背けたくなるような場面があります。R15+指定であることにも納得できる内容で、ホラーに慣れている人であっても、少し身構えたほうがよいかもしれません。


本作が描いているのは、目的を急ぐあまり行き過ぎたとき、人はどこまで踏み越えてしまうのか、という恐怖です。だからこそ、肉体的な痛みや不快感が、心理的な怖さと結びついていくのです。
YouTuber出身監督が切り開く、新しいホラー映画の流れ
ダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟は、YouTubeチャンネル「RackaRacka」で人気を集めた映像作家でもあります。2026年7月時点で、チャンネル登録者数は696万人、総再生回数は15億回に達しています。YouTuber監督という言葉だけを見ると軽く聞こえるかもしれませんが、実態はインディーズ映画監督がオンライン上で作品を発表し、観客を獲得してきたということでもあります。
映像の作風、観客を引きつける感覚、短い時間で不穏さを作る技術。そうしたものが、長編映画作品にも反映されています。A24がこうした作り手に注目する流れは、今後さらに増えていくかもしれません。
『トーク・トゥ・ミー』の衝撃とは違う、じわじわ残る怖さ
衝撃度という意味では『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』のほうが強かったかもしれません。あちらは設定の分かりやすさと勢いがあり、観客を一気に巻き込む力がありました。
一方の『ブリング・ハー・バック』は、もっと湿度の高いホラーです。家の中に満ちる違和感、親切さの裏にある不穏さ、何かが少しずつ進行している感覚が、じわじわと効いてきます。そして最終的に残るのは、「生きている人間が一番怖い」という感覚です。


幽霊や悪魔よりも、願いに取り憑かれた人間のほうが恐ろしい。愛情に見えるものが、相手を壊す力にもなり得る。本作は、その怖さをしっかり描いています。
夏に観るには十分すぎるほど怖い一本
『ブリング・ハー・バック』は、派手なジャンプスケアで驚かせるだけのホラーではありません。不気味な里親、謎の少年、VHSに残された儀式、そして兄妹に迫る何か。断片的な不安が少しずつ積み重なり、やがてひとつの恐ろしい結果へとつながっていきます。サリー・ホーキンスの笑顔が怖い映画としても、強く記憶に残るはずです。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』が好きだった人、儀式やルールのあるホラーが好きな人、そして人間の執着が生む恐怖を味わいたい人にはおすすめです。


映画『ブリング・ハー・バック』は、7月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開。夏に観るホラーとしては、十分すぎるほど後味の残る一本です。ただし、グロテスクな描写が苦手な人は注意してください。
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