映画『ハート・オブ・ビースト』レビュー|人間と犬の絆に泣くサバイバル映画

アラスカの大自然に取り残された、一人の男と一匹の犬。
映画『ハート・オブ・ビースト』は、そんなシンプルな設定から始まるサバイバル映画です。主人公は、ブラッド・ピット演じる退役軍人ジェームズ。そして相棒は、戦場をともに経験してきた元偵察犬オーディン。飛行機の事故によって人里離れた奥地に取り残されたジェームズとオーディンが、「生きて、マイホームに還る」ために歩き始めます。
映画『ハート・オブ・ビースト』とは?
予告編を見ると、グリズリーや激流など、わかりやすいサバイバルアクションを想像するかもしれません。でも、試写会で観て最も印象に残ったのはアクションではありません。ジェームズとオーディンが、どれほどお互いを信頼しているのか。困難に立ち向かう場面であればあるほど、この信頼感がより際立ちます。私は終盤、ほとんど泣いていました。
一人の人間と一匹の犬が、アラスカの奥地で遭難する


主人公ジェームズは、長年軍務に就いてきた元特殊部隊員。現在は退役し、相棒のオーディンと静かな暮らしを送っています。オーディンもまた、ジェームズとともに危険な任務を経験してきた元偵察犬です。物語の冒頭で2人は、自家用機でアラスカの奥地へ向かいます。誰もいない湖畔。テントを張る。焚き火をする。愛犬と一緒に過ごす。アウトドア好きなら、「こんなキャンプ、一度やってみたい」と思ってしまうような環境です。
ところが……その「誰もいない」という魅力が、そのまま最大の危険になります。飛行機が墜落し、ジェームズとオーディンは“魔の領域(ハート・オブ・ビースト)”と呼ばれる奥地に取り残されてしまいます。ここから始まるのが、長い長い帰還の旅です。
『ハート・オブ・ビースト』って場所の名前?


タイトルの「ハート・オブ・ビースト」は、劇中で人間を寄せ付けないアラスカの奥地、魔の領域=ハート・オブ・ビーストとして使われています。
実際、映画を観ていると、「こんなところで取り残されたら、どうしようもない」と思うほど広い。山を越えても、川を進んでも、人はいない。助けを呼ぼうにも、そもそも誰かが来る場所ではない。この圧倒的な孤立感が、本作の絶望的なサバイバルを成立させています。
派手なアクションより「どう生き残る?」
本作の面白さは、ジェームズがサバイバルの素人ではない、ことです。元特殊部隊員なので、装備もある、知識もある、そして状況に合わせた的確な判断もできる。だから、「偶然ここに便利なものがありました!」と奇跡を積み重ねて進むタイプの映画ではありません。
怪我をしたらどうするのか、夜をどう越えるのか、荷物をどう守るのか、野生動物に遭遇したらどう動くのか。目の前にある問題へ、一つ一つ対応していきます。予告編では激流やグリズリーなども強調されていますが、映画全体としては意外なほど硬派です。
アラスカの大自然そのものが2人に次々と試練を与えるサバイバル。派手な見せ場を待つというより、「この状況なら、どうする?」を一緒に考える。そんな面白さがあります。
デヴィッド・エアー×ブラッド・ピット再び


本作の監督はデヴィッド・エアー。ブラッド・ピットとは、戦車兵たちを描いた『フューリー』以来の再タッグです。近年のエアー監督といえば、『ビーキーパー』『ワーキングマン』のようなストレートなアクション作品もありますが、本作はそれらとは違い、もっと静かで、もっとシリアス。
『フューリー』でも描かれていた、極限状態の中で生まれるバディの感覚。それを今度は、ジェームズとオーディンというコンビで見せてくれます。
オーディンは戦場を生き抜いたが、心と体に傷を負っている


本作で注目すべき存在は、オーディンです。ものすごくかわいいです。しかし、戦場を生き抜いてきた元偵察犬であるオーディン自身も、戦場で傷を負っています。映像や写真からも分かるように、前足の一部が義足になっています。口の中にもチタンが入っています。そして、戦場の記憶がフラッシュバックするなどPTSDの症状も抱えています。ジェームズと同じく、過去の辛い記憶を背負った存在なんです。
オーディンは何でも完璧にこなせるスーパードッグではありません。山中でも速く走れるし、ジェームズを助けることもできる。でも義足の影響で足場によっては慎重になる。過去の記憶が現在にも影響している。だからこそ、支え合える。傷を抱えているのは人間だけではない、犬も傷つき、それでも前を向く物語なんです。
犬好きには気になる……「あの問題」


犬が登場する映画を見るとき、犬好きにはひとつ大きな問題があります。「この子、ひどい目に遭わないよね?」という心配です。詳しくは触れられませんが、本作はサバイバル映画なので、もちろん危険な状況には直面します。オーディン自身も過去に傷を負っています。
私が観る限り、ジェームズと並ぶ大切な登場人物として描いていることは伝わってきました。
大事なのは、ジェームズがオーディンをどう扱うか。そして、オーディンがジェームズをどう見ているかです。言葉は通じなくても、「今、この人が何を必要としているのか」がお互いにわかっている。犬と暮らした経験がある人なら、この距離感に共感を覚える人も多いのではないでしょうか。
犬を飼っていた経験のある私も「そう、犬との信頼ってこうなんだよ……」となりました(そして泣く……)。
サバイバルを通して、お互いの絆を確かめる映画


本作の魅力を一言で表すなら、ここかもしれません。ジェームズがオーディンを守る。でも、オーディンもジェームズを守る。人間が犬を連れて旅をしているのではありません。2人で帰ろうとしている。ブラッド・ピット自身も本作について、ジェームズとオーディンが互いに支え合う姿が美しく描かれていると紹介しています。
本作は、主従関係を超えたバディ感が、とてもいいんです。厳しい道のりを進むほど、それまで2人が一緒に過ごしてきた時間まで感じられるようになります。だから終盤になるほど、ちょっとした仕草だけで涙腺に来ます……。
ブラッド・ピット演じるジェームズもかなりボロボロ……


初めはオーディンを心配しながら観ていたはずなのに、途中から、「むしろジェームズ(ブラッド・ピット)は大丈夫?」となってきます。ジェームズ自身も、決して無敵のヒーローではありません。過去の戦闘で受けたダメージが色濃く残っています。それでも、身体的にも精神的にも厳しい状況の中で、一歩ずつ進んでいきます。覚悟は持ちつつ、一人の人間としての弱さも見える、そのぶん、オーディンとの関係もより自然に感じられました。
キャンプ・アウトドア好きにもおすすめしたい現代的サバイバル


人間と犬の絆の物語、というシリアスな話ではありますが、キャンプ・アウトドア好きにもかなり面白い映画です。ジェームズは準備をしてキャンプへ来ているので、完全なゼロからのサバイバルではありません。
だからこそ、「持っているものをどう使う?」「今ある装備でどう切り抜ける?」という部分が面白い。サバイバル映画にありがちな、「まず水を探す」「食糧はどうする?」といった、根本的な生命維持とは、少し事情が違います。
本作は、経験と装備がある上でのサバイバルです。「経験者ならこう考えるのか」と見るぶんには、かなり興味深く見られる作品です。
大自然も、もう一人の登場人物


本作の舞台はアラスカですが、撮影はニュージーランドの大自然を生かして行われています。険しい自然環境そのものが、作品の重要な要素になっています。画面いっぱいに広がる森、山、川、谷、草原、それらが雄大で美しい一方で、ものすごく怖い。
そもそも人間の都合でどうにかできる環境ではありません。トラブルが無くても、ドラマを起こさなくても、自然そのものが十分に強い。この硬派さは、『ハート・オブ・ビースト』の魅力です。
果たして、ジェームズとオーディンはこの環境から脱出して、家に帰れるのか。
『ハート・オブ・ビースト』まとめ
『ハート・オブ・ビースト』は、退役軍人ジェームズと元偵察犬オーディンが、大自然の中から生還を目指すサバイバル映画です。予告編では激しい場面が目立ちますが、作品の中心にあるのはもっとシンプルなもの。人と犬の信頼です。ジェームズがオーディンを助ける。オーディンがジェームズを助ける。どちらか一方が守られるのではなく、2人で帰ろうとする。その関係性を最後まで描き切っています。
派手なアクションを次々に楽しむ作品というより、判断と経験を積み重ねて生き延びる硬派なサバイバル映画。そして犬と暮らしたことがある人にとっては、かなり涙腺を緩ませる一本です。私は終盤、ほぼオーディンを見るだけでダメでした。でも、だからこそ、観てほしいです。
映画『ハート・オブ・ビースト』は9月25日(金)、全世界同時公開です。ジェームズとオーディンは、無事にマイホームへ帰れるのか。ぜひ劇場で見届けてください。


作品名:『ハート・オブ・ビースト』
原題:Heart of the Beast
監督:デヴィッド・エアー
出演:ブラッド・ピット、J・K・シモンズ、アンナ・ラム
製作総指揮:デイミアン・チャゼル、スコット・ランプキン、キャメロン・アレクサンダー、クリス・ロング、ピート・キャペッタ、アントニー・ティッタネグロ、アンドリュー・ラリー、ソフィ・キャシディ、ザック・コンロイ、オリヴィア・ハミルトン、マーティン・ボーウィン、デヴィッド・エアー、ブラッド・ピット
製作:オリヴィア・ハミルトン、マーティン・ボーウィン、デイミアン・チャゼル、ブラッド・ピット
脚本:キャメロン・アレクサンダー
配給:東和ピクチャーズ・東宝
公開日:9月25日(金)全世界同時公開
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