映画『我々は宇宙人』レビュー|先が読めない“青春”に迷い込む異色のオリジナルアニメーション

「これ、青春映画なの?それとも……?」
映画『我々は宇宙人』を観ていると、何度かそんな疑問が浮かびます。
物語は、平成のある田舎町で出会った2人の少年から始まります。内気で「普通」であることに悩む翼と、クラスの人気者で特別な存在に見える暁太郎。2人は小学3年生の春に親友になりますが、ある出来事を境に関係が変わっていきます。そこから約30年にわたる時間を描く、完全オリジナルの長編アニメーションです。

映画『我々は宇宙人』とは?
本作の面白さは、前半で想像していた内容と、観終わったあとに振り返る印象がまるで違うこと。この面白さを体感してもらうために、できれば何も知らずに観てほしい一本です。というわけで本記事では、できるだけネタバレを避けながら、本作を紹介していきます。
2人の少年から始まる30年の物語


主人公の後藤翼は、好きなものや得意なものがないことにコンプレックスを抱える少年です。そんな翼が出会うのが、頭がよく、クラスでも人気者の星暁太郎。2人だけの遊び、意味はないけど楽しい会話、夕暮れの帰り道。子どもの頃にしか成立しないような時間が、かなり丁寧に描かれています。
しかし、ある出来事をきっかけに暁太郎がクラスの中で浮いた存在となり、2人の関係も変化していきます。……と、物語に触れるのはここまで。知らないままの方が、驚きと楽しさにつながります。
前半で想像した映画が、そのまま終わらない


前半は、一人の少年が大人へ近づいていく過程を見つめる青春ドラマのように進みます。ところが、途中から少しずつ映画の表情が変わってきます。「このままこういう話が続くんだろう」と思っていたところから、予想とは違う方向へ進み始める。個人的には、ここがかなり驚きでした。
門脇康平監督のインタビューによると、物語の大筋そのものは変わらなかったものの、長編作品として観客を引きつけるため、制作途中で“ジャンル映画的な面白さ”を加えていったと話しています。つまり、途中で映画の印象が変わる感覚は、意図的に作られたものでもあります。
青春映画なのか、人間ドラマなのか、それとも、本当に宇宙人の映画なのか。その答えは、映画を観ながら想像してみてください。
『我々は宇宙人』というタイトルの意味


やはり気になるのは、このタイトルです。『我々は宇宙人』。タイトルだけを見れば、もしかしてSF?と想像する人もいるでしょう。この映画における「宇宙人」とは何なのか。これは、タイトルの意味を考えながら観た方が面白いと思います。
興味深いのは、このタイトルが企画当初から決まっていたわけではないこと。門脇監督によると、作品が4割ほど完成したところで突然このタイトルが浮かび、「これ以外あり得ない」と感じたそうです。さらに、タイトルが決まったことで新たに生まれた場面やデザインもあったそうです。
映画を観終わったあとに改めて、「なぜ『我々は宇宙人』だったんだろう?」と考えてみる。そこまで含めて本作の楽しみ方だと思います。
全編手描き、動きは妙にリアル


本作を観て、まず目を引くのが、かなり写実的なアニメーションです。一見するとロトスコープ作品のようにも見えますが、本編はすべて手描きで制作されているそうです。そのうえで、実際の人間の動きを撮影し、必要な部分だけロトスコープから拾いながら、通常の2Dアニメーションと組み合わせています。
特にこだわったのが、子どもの“無駄な動き”。枝を拾う、壁を触りながら歩く、真っすぐ帰らない、意味もなく身体を動かす。
門脇監督は、そうした子ども特有の動きを再現することで、「昔の自分みたいだ」「クラスにこういう子がいた」と感じてもらいたかったと説明しています。実際、キャラクターが歩いているだけでも妙に人間らしい。そのリアルさが、本作の少し不思議な世界観を支えています。
平成を“見る”より“思い出す”映像


学校、ランドセル、机、住宅街、子ども部屋。当時を知る世代なら、どこか懐かしく感じるものが次々に登場します。ただ、単に昔のアイテムを並べているわけではありません。ランドセルなら、「どう使われてきて、なぜここが傷んだのか」まで想像できるほど、細部が作り込まれている。学校の机なら、角の丸みから、触った時のツルツルした感触まで思い出せるように描く。
門脇監督は、単に昔を再現するのではなく、観客の中にある“かつての感覚”を呼び起こすことを目指したそうです。だから、映像を見ていると、「こういう机だったな」「こういう帰り道あったかも」と、自分の記憶まで引っ張り出される感覚があります。ストーリー以外にも楽しみが多い作品です。
若いクリエイターの“執念”が詰まっている……?


本作の企画・脚本・監督を務めたのは、1996年生まれの門脇康平監督です。東京藝術大学デザイン学科を卒業後、アニメ制作会社勤務を経て独立。MVなどを中心に活動し、本作『我々は宇宙人』が初の長編監督作品です。
本作の企画当初、NOTHING NEW側には長編アニメーション映画を制作した経験がなく、既存のスタジオへ発注するのではなく、社内にアニメーション制作チームを作るところから始めたそうです。メイン原画は4人。全体では約20人のアニメーターが関わっていますが、原画の80%以上を門脇監督とメインの4人で担当したそうです。
映画を観て感じたのは、“執念”のようなこだわりでした。細部まで描く、動きにこだわる、背景にも情報を詰める。そして、物語そのものにも最後まで熱を注ぎ込む。クリエイターたちが長い時間をかけて作り上げた作品であることが、画面から伝わってきました。
俳優・坂東龍汰と岡山天音の声が、自然になじむ


後藤翼の声を担当するのは坂東龍汰。星暁太郎を演じるのは岡山天音です。さらに山﨑天、松井ケムリらも参加しています。本作の声の演技は、いわゆるアニメーション的にキャラクターを大きく立たせる方向ではなく、写実的な動きのキャラクターに、俳優の生っぽい声がそのまま乗っています。
この組み合わせが、本作独特の空気によく合っています。
音楽はYaffle、主題歌はadieu


音楽を担当するのはYaffle。主題歌はadieuの「ささくれ」。Yaffleは本作について、人間のきれいな部分だけではなく、醜さまで含めた美しさを音楽に込めたとコメントしています。きれいな青春だけではない。嫉妬もある、迷いもある、見たくない自分も出てくる。それでも、そのすべてを含めて人間の時間として描いている。主題歌「ささくれ」も、そんな映画の余韻に静かに寄り添っていると感じました。
海外映画祭でも注目
本作は、第79回カンヌ国際映画祭の監督週間に正式出品されました。さらに、アヌシー国際アニメーション映画祭2026の長編コンペティション部門、オタワ国際アニメーション映画祭2026の長編アニメーション・コンペティションにも選出されています。
そのほか、メルボルン、ニュージーランド、香港、ファントッシュなど、世界各地の映画祭に入選するなど、海外でも注目を集めています。
「少し変わった映画」が観たい人へ


『我々は宇宙人』を一言で説明するのは難しいです。青春映画なのか?成長物語なのか?人間ドラマなのか?あるいは不穏な映画なのか?そしてタイトルには「宇宙人」。どれも間違っていない気がするのに、それだけでは説明しきれません。
だからこそ、「最近、先の読めない映画を観ていないな」という人におすすめしたいです。原作のない完全オリジナル作品なので、「この展開なら、次はこうなる」という予想もできません。
映画を観ながら、「これ、どこへ行くんだろう?」と思える。その感覚自体が、本作の面白さです。
『我々は宇宙人』まとめ
『我々は宇宙人』は、平成の田舎町で出会った2人の少年から始まる、30年にわたる物語です。写実的なのにどこか異質。懐かしいのに、見たことがない。青春映画のように始まりながら、その先に何が待っているのかは簡単には予想できません。
作品を支えているのは、門脇康平監督をはじめとする若いクリエイターたちの圧倒的な熱量です。できれば、あまり情報を入れずに観てください。そして、観終わったあとに「どこが面白かったか」を誰かと話してみてほしい。最後のあの言葉も印象的です。余韻まで含めて楽しめる作品です。
映画『我々は宇宙人』は、9月25日(金)全国劇場公開です。ぜひ、まっさらな気持ちで、早めに観てみてください。


作品名:『我々は宇宙人』
英題:We are Aliens
企画・脚本・監督:門脇康平
出演:坂東龍汰、岡山天音、山﨑天(櫻坂46)、松井ケムリ、槙木悠人、中込佑玖、鈴木咲、末永陽
音楽:Yaffle
主題歌:adieu「ささくれ」
作詞・作曲:Yaffle
企画・製作・制作:NOTHING NEW
協力:MIYU PRODUCTIONS
配給:TOHO NEXT・NOTHING NEW
公開日:2026年9月25日(金)
©NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS











