映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』レビュー|生成AIに全部聞いてみる、意外な方向に話が変わっていく、完全犯罪サスペンス!

「人を殺してしまった。完全犯罪にする方法を教えて」
そんな、とんでもない相談をAIに投げかけるところから始まるのが、本作『5秒で完全犯罪を生成する方法』です。主要な登場人物は、重岡大毅さんが演じる兄と、原菜乃華さんが演じる高校生の妹。
意図せず殺人事件を起こしてしまった妹を守るため、兄が頼ったのは生成AIでした……というお話。AIが生活の中へ当たり前に入り込んだ今だからこそ、成立する設定です。ただ、本作の面白さは「AIってすごい!」ではありません(目が肥えた方も安心してください)。
AIが導き出した答えを、現実に実行するとどうなるのか。そんなの上手くいくわけないだろう〜なんて思っていたら、予想外の展開に驚いたり、意外とバレないものか、って安心したりと、あまり難しく考えなくても大丈夫。ハラハラしながら展開を追い、最後には「なるほど、そう来たか!」と楽しめる、かなり見やすいサスペンスです。
……最初にひとつだけ。
タイトル回収がお見事、です。
詳しくは言えませんが、『5秒で完全犯罪を生成する方法』というタイトルを覚えたまま、最後まで観てください。
『5秒で完全犯罪を生成する方法』はどんな映画?
物語の中心となる人物は、10歳差の兄妹です。兄はフリーライターとして働き、妹は高校生。ある日、妹が思いもよらない出来事で人を死なせてしまいます。助けに呼ばれた兄が最初に考えるのは、当然ながら妹を守ること。しかし、状況を整理すればするほど、「正当防衛でした」で済ませられそうにはありません……。
そこで兄が頼ったのが、普段から使っている生成AIです。
本作に登場するAIの名前は「chApple(チャップル?)」。兄は状況を細かく入力し、「この事件を迷宮入りさせるにはどうすればいい?」と問いかけます。そしてAIから示された手順をもとに、兄妹は事件を隠そうと動き始める――。という話です。
「AIなら完全犯罪を作れる?」から始まった企画
本作の企画の出発点には、「ChatGPTに“完全犯罪”を作らせたらどうなるだろう?」という発想があったそうです。ChatGPTが一般に広く知られるようになった2022年以降、AIはものすごいスピードで日常生活へ入り込んできました。文章を書く、情報を調べる、アイデアを出してもらう、仕事の相談をする。AIは、今では特別なものではなくなりつつあります。
だったら、犯罪の相談までしたらどうなるのか……という発想を持ち込んだのが本作です。ちなみに作中のAIは「犯罪の手助けはできない」と一度は拒否します。では、なぜ回答してくれたのでしょうか……?
AIは賢い。しかし、現実は予定通りに動かない。


本作で特に面白かったのが、AIの扱い方です。AIは賢いし、何でも知っているようだけど、万能の存在としては描かれていません。特に、これから起こる現実は一本道ではなく、さまざまなパラメーターが入り組んでいるので、生成AIの思い通りに事は運びません。
そこで、重岡さんが演じる兄は、chAppleからより正確な答えを引き出そうと、状況を細かく説明します。何が起こったのか。どんな場所なのか。どういう条件なのか。情報を具体的に与えるほど、生成AIの回答も具体的になります。
生成AIを日常的に使っている人なら、「ああ、わかる」と納得するところではないでしょうか。
でも、現実にはAIへ入力していない情報が山ほどあります。知らない人が現れるかもしれない。予定外の出来事が起こるかもしれない。誰かが思いもよらない判断をするかもしれません。AIが考えた“理屈の上ではうまくいく計画”と、現実とのズレ。そこからサスペンスがどんどん面白くなっていきます。
まさかの「別の事件」と重なってしまう
予告編でも触れられているため紹介しておきますが、兄妹とAIの計画には思いがけない展開が待っています。兄妹がAIを使って作った偽装が、警察が追っていた別の連続殺人事件の特徴と偶然重なってしまうんです。
これが面白い!この偶然が一気に物語を加速させます。警察側から見れば、連続殺人事件として新たな殺人が発生したことになる。一方の兄妹にとっては、自分たちが考えてもいなかった方向へ捜査が進んでいく。
「うまくいった?」と思ったら、「いや、これ別の意味でまずくない?」となる。この予測できない転がり方が、本作の気持ちいいところなんです。
重岡大毅の“善人すぎる兄”がハマる
兄を演じるのはWEST.の重岡大毅さん。WEST.のメンバーとして活動しながら、映画やドラマで幅広く活躍してきた俳優です。本作では、妹を守るために犯罪へ踏み込んでしまう兄を演じています。
この役がかなりハマっています。重岡さんの持っている、実直で善良そうな雰囲気が効いているんです。どう見ても犯罪を隠すことに慣れていない。むしろ、「犯罪なんかしそうにない兄」に見えます。でも、妹のことになると判断を誤ってしまう。自分のためなら冷静になれたかもしれないのに、家族を守ろうとすると視野が狭くなる。この危うさに説得力があるんです。
原菜乃華の“巻き込まれていく顔”がいい
妹を演じるのは原菜乃華さん。『すずめの戸締まり』で主人公・岩戸鈴芽の声を担当したほか、『ミステリと言う勿れ』など、数々の実写作品でも活躍しています。本作では、突然とんでもない状況へ放り込まれる高校生を演じます。この役も非常に合っていました。


何か悪いことを企むような役ではありません。怖い。焦る。どうしたらいいかわからない。そんな普通の高校生が、一度起きてしまった事件によって、どんどん戻れないところへ進んでしまう。原菜乃華さんが演じる妹の表情には、「本当にこれで大丈夫なの?」という不安がずっと離れないまま。
つまり、兄を演じる重岡さんと並ぶと、2人ともかなり“善人顔”なんです。その兄妹が完全犯罪を目指している。このギャップを楽しんでください。
重岡大毅×原菜乃華の兄妹感
犯罪の仕掛け以上に、この映画を見やすくしているのが兄妹の関係です。兄は妹を守りたい。妹は兄を頼るしかない。でも2人とも犯罪のプロではない。だから、AIから出された答えを見ながら、「本当にこれやるの?」という空気がある。
この“普通の兄妹がとんでもないことをしている”感覚が、本作にはよく合っています。完全犯罪ものというと、どうしても天才犯罪者と天才刑事の頭脳戦が描かれがち。でも、本作はちょっと違います。
普通の兄妹が、AIという強力そうな道具を手に入れてしまった。その危なっかしさを楽しむ映画です。
ちなみに……chAppleの声を担当する声優は……?
個人的にかなり好きだったポイントです。生成AI・chAppleの声を担当するのは早見沙織さん。『SPY×FAMILY』のヨル・フォージャーや、『鬼滅の刃』の胡蝶しのぶなどでも知られる声優です。
早見さんの声が、とにかく落ち着いています。優しい。丁寧。安心感がある。でも、だからこそ怖いんですよね。兄妹がとんでもない相談をしているのに、AIは感情的になりません。淡々と答える。声に悪意はありません。この距離感が、AIという存在によく合っています。
切れ者“すぎない”刑事たちもいい
警察側にも注目です。この手の作品だと、「現場を見てひらめく、切れ者刑事」が出てきそうですよね。本作は、そこを少し外しています。刑事たちは、ちゃんと捜査をします。目の前の証拠を調べる。手掛かりを追う。事件と事件の共通点を考える。
犯罪捜査に実直です。だからこそ、AIによって作られた偽装にも意味が出てきます。普通に捜査した結果、騙されたように見えてしまう。この塩梅がよかったです。
近藤亮太監督が作るサスペンスの緊張感


監督は近藤亮太さん。2023年に日本ホラー映画大賞で評価され、その後『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』などを手掛けてきた映像作家です。本作では登場人物を極端に格好よく見せすぎず、“普通の人が犯罪に踏み込んでいく怖さ”を意識して演出しています。ホラー畑で培った緊張感も、本作に合っています。
とはいえ、ずっと重苦しい映画ではありません。テンポよく展開が変わるため、「次、どうなる?」と追いかけているうちに進んでいきます。難解な犯罪サスペンスというより、アイデアを楽しみながら観られるエンタメ作品とも言えます。
『5秒で完全犯罪を生成する方法』のまとめ
『5秒で完全犯罪を生成する方法』は、AI時代だからこそ生まれた完全犯罪サスペンスです。重岡大毅さんと原菜乃華さんが演じる、ごく普通に見える兄妹。そこへ生成AI・chAppleが加わり、「AIの言う通りに動けば、本当に犯罪を隠せるのか?」という危ない実験が始まります。
計画する。実行する。予想外のことが起きる。焦る。さらにAIへ聞く。その繰り返しがテンポよく進みます。だから、サスペンスを普段あまり観ない人にも入りやすい。大作を観るぞ、と身構えるより、「このタイトル、ちょっと面白そう」くらいの気持ちで入ってほしい一本です。
そして最後には、もう一度タイトルを見てみてください。良いタイトル回収でした。映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』は、2026年9月11日(金)より全国公開です。


作品名:『5秒で完全犯罪を生成する方法』
原案・脚本・プロデュース:岡田道尚
監督:近藤亮太
出演:重岡大毅、原菜乃華、田中みな実、伊藤歩、石丸幹二、黒田大輔、森岡龍、九十九黄助ほか
生成AIボイス:早見沙織
音楽:Teje
撮影:松田恒太
照明:石塚大樹
美術:早坂英明
編集:和田剛
配給:ギャガ
公開日:2026年9月11日











